都市計画の制限
宅建の試験で出題される都市計画法は、街づくりのルールについて定めた制度です。
不動産を売買するに当たり、重要事項説明書の中には「都市計画法に基づく制限」と呼ばれる項目があります。
都市計画の制限は建築行為や開発行為で制限を受けることで、代表的なものには以下のようなものがあります。
- 開発許可制度
- 市街化調整区域内における建築等の制限
- 田園住居地域内における建築等の制限
- 風致地区内における建築等の制限
- 地域地区内での建築行為の制限
- 都市施設や市街地開発事業に関連した建築等の制限
より良い街づくりのために、多種多様な制限が行われていますね。
開発許可制度とは?
都市計画の制限の中でも、開発許可制度は忘れてはいけません。
開発許可制度が一体何を指しているのか簡単にまとめてみました。
- 一定規模以上の開発行為では都道府県知事の許可を受ける
- 市街化区域内で都市計画への適合や環境の保全の審査を受け、許可をもらう
- 市街化調整区域内では原則的に行為を禁止する
開発行為や建築行為を都道府県知事等の許可に係らしめる制度だと考えるとわかりやすいのではないでしょうか。
開発許可制度の目的
開発許可制度が制定されたのは、良好かつ安全な市街地の形成と無秩序な市街化の防止が目的です。
この制度のお陰で、乱開発の防止で暮らしやすい街づくりが進められています。
「開発行為」の定義
開発行為は、都市計画法第4条第12項で下記のように定義されています。
・主として建築物の建築または特定工作物の建設の用に供する目的で行なう土地の区画形質の変更
特定工作物には第一種特定工作物と第二種特定工作物があり、それぞれ以下のとおりです。
- 第一種特定工作物:コンクリートプラント、アスファルトプラント、クラッシャープラントなど
- 第二種特定工作物:ゴルフコース、1ヘクタール(10,000㎡)以上の野球場・遊園地、墓地、庭球場など
第二種特定工作物のうち、ゴルフコースだけは面積の指定はありません(どのような広さであっても対象となる)。
また、「土地の区画形質の変更」とは「土地の区画・形状・性質の変更」のことをいいます。
このうち「形質の変更」とは、切土・盛土などの造成工事をすること、「性質の変更」とは宅地を道路とするようなことをいいます。
開発許可が不要な例外(4ケース)
以下では、都市計画における開発許可が不要な4ケースの例外について解説していきます。
(例外1)小規模な開発
小規模な都市開発でも、原則的に開発行為について知事の許可を受けないといけません。
しかし、市街化区域における1,000平方メートル未満の開発行為は、例外として開発許可が不要ですよ。
その他、非線引区域や準都市計画区域においては、3,000平方メートル未満の開発行為は開発許可が不要。
都市計画区域でも準都市計画区域でもない区域は、1ヘクタール(10,000平方メートル)未満の開発行為は開発許可が不要になります。
(例外2)農林漁業用の建築物
農林漁業者の住宅や農林漁業用建築物(畜舎、蚕室、温室、堆肥舎)を建築する場合は、開発許可が不要だと定められています。
農林漁業従事者には「被傭者」「兼業者」を含み、臨時的と認められるものは含みません。
(例外3)公益上必要な建築物
公益施設の開発行為は、例外的に許可が不要です。
ここで言う公益施設は、「駅舎」「図書館」「公民館」「変電所」などを指しています。
(例外4)都市計画事業・土地区画整理事業の施行として行う場合、その他
下記に該当する開発行為も、例外的に許可手続きを行う必要がありません。
- 都市計画事業
- 土地区画整理事業
- 市街地再開発事業
- 住宅街区整備事業
- 防災街区整備事業
- 有水面埋立事業
この点に関しては、都市計画法第29条で記載されています。
開発許可の手続き
開発許可の手続きは、次の3つのケースで必要です。
- 建築物の建築
- 第1種特定工作物(コンクリートプラント等)の建設
- 第2種特定工作物(ゴルフコース、および1ヘクタール未満の庭球場等)の建設
これらの建設を目的とした土地の区画形質の変更で、開発許可の手続きをしないといけません。
以下では、開発許可の手続きについて更に詳しくまとめてみました。
開発許可の手続きの流れ
開発許可の手続きは、大まかに次の流れで進みます。
- 申請前の手続き
- 許可の申請
- 審査
- 許可・不許可
- 変更の許可と地位の承継
- 着工
- 工事完了・検査
- 工事完了の公告
それぞれの項目で具体的に何をするのか見ていきましょう。
申請前の手続き
開発許可を申請する前に、あらかじめ、関係者と協議したり同意をもらったりする必要があります。
- 開発行為に関係がある公共施設の管理者と協議し、その同意が必要
- 開発行為により設置される公共施設を管理することになるものと協議が必要
- 土地所有者等の相当数の同意が必要
- 1ヘクタール以上の開発行為の設計図書は、有資格者が作成することが必要
上記①③の場合は同意書を申請書類に添付する必要があり、②の場合は協議書を添付する必要があります。
許可の申請
許可の申請では申請書の作成が必要で、次の内容について記載します。
- 開発区域の位置・区域・規模
- 予定建築物等の用途
- 開発行為に関する設計
- 工事施行者
- 工事の着手予定年月日
- 工事の完了予定年月日 など
開発許可の申請書の提出先は、都道府県知事(指定都市の場合は市長)です。
審査
開発許可の審査に通るのかどうかは、都市計画法の第33条と第34条を満たしているのかどうかで決まります。
・都市計画法第33条の基準(https://www.pref.kanagawa.jp/documents/24800/06-dai3shou-2-kijun.pdf)
・都市計画法第34条の基準(https://www.pref.saitama.lg.jp/a1102/kaihatukyokanoseido/documents/00ikkatudaunnrodo.pdf)
都市計画法第33条は全国どこでも適用される全般的許可基準、都市計画法第34条は市街化調整区域内の開発行為に関する基準です。
許可・不許可
開発許可の申請がなされた場合は、都道府県知事等は審査をして許可または不許可の処分をしないといけません。
許可処分と不許可処分は文書で申請者に通知し、不許可処分ではその理由も示す必要があります。
許可になった場合は、「開発許可の申請」⇒「開発許可」⇒「工事開始~工事完了」⇒「工事完了届」⇒「検査~検査済証」⇒「工事完了公告」という流れです。
開発許可が不許可になった時は、申請者は開発審査会に審査請求をすることができます。
変更の許可と地位の承継
開発許可を受けた時は、開発行為の変更許可を受けたり開発許可に基づく地位を承継したりできます。
参考:https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/bosai/kaihatsu/pdf/kaihatsu14.pdf
地位の承継の手続きには、開発許可を受けた者の地位を承継する場合の申請書の「開発許可地位承継承認申請書」が必要です。
着工
開発許可を受けながら工事完了の意思がなくて放置されると、周辺の環境に悪影響が及びます。
そのため、開発許可を受けた工事に着手する時は、現場管理者を定めて速やかに着工しないといけません。
以下では、開発許可後の進行管理で押さえておきたいポイントをいくつか挙げていきます。
- 工事施行状況の報告を求めるなど工事の実施状況を把握する
- 建築確認担当部局と連絡を取って開発許可の現地を巡回する
- 市街化調整区域の開発許可や建築許可の用途変更を把握する
- 工事完了予定年月日を過ぎても完了の届出がない時は、法第80条の規定に基づいて報告を求める
工事着手届出書には、工事工程表や現況写真を添付して知事(市長)に提出する必要があります。
工事完了・検査
開発許可の工事が完了した時は、知事(市長)に工事完了届出書を提出して完了検査を受けないといけません。
開発許可の工事完了検査については、法第三十六条で次のように定められています。
- 当該開発行為に関する工事を完了した時は国土交通省令で定めるところにより、その旨を都道府県知事に届け出なければならない
- 都道府県知事は届出があった時に、遅滞なく当該工事が開発許可の内容に適合しているかどうかについて検査し、検査済証を当該開発許可を受けた者に交付しなければならない
参考:https://www.city.tatebayashi.gunma.jp/docs/2011102800069/files/t3-38.pdf
「開発区域を工区に分けた」「公共施設に関する工事が完了した」というケースでは、届け出で開発行為の一部の完了検査を受けられます。
工事完了の公告
都法37条建築承認を受けた建築物が完成しても、完了公告が行われるまでは供用できません。
工事完了の公告前には建築制限等がありますので、あらかじめ確認しておく必要があります。
参考:https://www.pref.saitama.lg.jp/a1102/kaihatukyokanoseido/documents/17koukokumae272-274.pdf
開発許可制度以外の都市計画制限
都市計画制限の中でも、都道府県知事の許可を受けることを義務付ける開発許可制度が一般的です。
しかし、以下のような開発許可制度以外の都市計画制限もあります。
- 市街化調整区域内における建築等の制限
- 田園住居地域内における建築等の制限
- 風致地区内における建築等の制限
- 地区計画の区域内における建築物の制限
- 都市施設や市街地開発事業に関連した建築等の制限
この項では、開発許可制度以外の建築等の制限についてまとめてみました。
市街化調整区域内における建築等の制限
市街化調整区域内で開発区域以外で建築物の建設や改築、用途の変更を行う場合は、開発許可または建築許可を受けないといけません。
許可を要する市街化調整区域内における建築行為は次の3つです。
- 建築物を新築または改築する
- 既存建築物を用途変更するまたは増改築をする
- 第一種特定工作物を新設する
参考:https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/4830/kaihatu/documents/1-12.pdf
都市計画事業の施行として行う建築物の新築や非常災害のため必要な応急措置として行う建築物の新築に関しては、この限りではありません。
田園住居地域内における建築等の制限
田園住居地域とは、都市計画における住居系用途地域の一つです。
生産緑地以外の市街化区域内農地の建築を規制し、農業利用と調和した住居の環境を保護する仕組みを指しています。
以下では、市街化区域と田園住居地域の建築制限の違いについてまとめてみました。
- 市街化区域は生産緑地を除いて宅地化を規制する定めは特になし
- 田園住居地域は「土地の形質の変更」「建築物の建築」「工作物の建設」で許可を受ける必要あり
参考:https://www.zennichi.or.jp/law_faq/%E7%94%B0%E5%9C%92%E4%BD%8F%E5%B1%85%E5%9C%B0%E5%9F%9F/
田園住居地域内における建築等の制限は、「建ぺい率」「容積率」「道路斜線制限」「隣地斜線制限」「絶対高さ制限」などの制限があります。
第1種低層住居専用地域の建築制限と大差ないのが特徴です。
風致地区内における建築等の制限
風致地区とは、都市内外の自然美を維持保存する目的で1919年に都市計画法で制定されました。
風致地区にも建築等の制限がありますので、建築物の建築や宅地の造成等の一定の行為を行うに当たって許可が必要です。
建築の許可が必要な行為は、次の7つにわけられます。
- 建築物その他の工作物の新築や改築、増築や移転
- 宅地の造成、土地の開墾や形質の変更
- 高さが5mを超える木竹の伐採
- 土石の類の採取
- 水面の埋立てや干拓
- 建築物等の意匠の変更
- 屋外における土石や再生資源のたい積
参考:https://www.city.saitama.jp/001/010/019/002/p005550.html
許可申請をするには、「風致地区内行為許可申請書」「建築物計画書」「樹木計画表」「委任状」「添付図面」を用意しましょう。
地区計画の区域内における建築物の制限
以下では、地区計画の区域内における建築物の制限の対象をいくつか挙げていきます。
- 土地の区画形質の変更
- 建築物その他の工作物の新築、改築や増築
- 建築物その他の工作物の用途の変更
- 建築物その他の工作物の形態または意匠の変更
- 木竹の伐採
参考:https://www.city.osaka.lg.jp/toshikeikaku/page/0000005302.html
都市計画に定めた地区計画の区域内で建築する時も、届け出をしないといけません。
都市施設や市街地開発事業に関連した建築等の制限
都市施設や市街地開発事業と関連する建築でも、一定の制限があります。
許可が必要な建築行為は次の3つです。
- 市街地開発事業の建築物の建築
- 容易に移転除却ができる建築物
- 都市計画に適合した建築物
都市施設や市街地開発事業で建築が許可される要件と建築許可が不要とされる要件は、こちらのページをご覧になってください。
参考:https://smtrc.jp/useful/glossary/detail/n/1200
まとめ
以上のように、都市計画法の中でも都市計画の制限や開発許可制度について詳しくまとめました。
開発許可制度は宅建試験でも重要な科目ですので、しっかりと勉強しないといけません。
毎年1問は必ず出題されていますので、過去問を繰り返し解いて得点できるようにしてください。
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その他、以下のワンポイントWebテキストも参考にしてみてください。
<宅建業法>
<権利関係>
<法令上の制限>
著者情報 | |
氏名 | 西俊明 |
保有資格 | 中小企業診断士 , 宅地建物取引士 |
所属 | 合同会社ライトサポートアンドコミュニケーション |