こんにちは、トシゾーです。
今回は、35条書面について説明します。
35条書面とは「重要事項説明書」のことで、宅建業法の第35条に定められていることから、このように呼ばれています。
売買や賃貸の契約を結ぶ前に、買主や借主に対して「最低限、必要な情報」を提供し、本当に契約するのかどうか判断してもらうことが必要です。
この「最低限、必要な情報」が「重要事項」であり、それらをまとめた書類が35条書面(重要事項説明書)なのです。
35条書面の説明は宅建士の独占業務であり、宅建士の最重要業務といっても過言ではありません。
この記事では、そんな35条書面について分かりやすく説明していきます。
35条書面とは?
前述のとおり、不動産売買や賃貸の契約の前に、買主や借主に説明しなければならない重要事項説明が書かれた書面です。
35条書面を利用した重要事項説明の手続き
説明時期
35条書面は、契約が成立するまでの間に説明する必要があります。
説明の義務者
買主や借主への説明の義務を負っているのは宅建業者です。
説明をする人
実際に説明するのは宅建士です(独占業務)。
つまり、宅建業者が宅建士に説明させる形となります。
なお、重要事項説明を行う宅建士は、専任の宅建士である必要はありません。
説明の相手方
不動産の買主や借主に説明します(不動産の交換の場合は、交換の当事者に説明します)。
ただし、買主・借主・交換の当事者が宅建業者の場合、重要事項説明の義務はありません。
説明する場所
特に場所は定められていません。
IT重説
貸借の代理・媒介の場合は、対面以外に「Web会議(テレビ会議)」などのITを活用した説明も可能です(追記:2021年より、売買・交換でもIT重説が可能になりました)。
注意事項
必ず書面を作成・交付して説明しなければなりません。
また、書面に宅建取引士が記名押印をします ※記名押印についても、専任の宅建取引士である必要はありません。
宅建士は、説明に際して必ず宅建取引士証を提示しなければなりません。(相手方から請求が無くても、宅建士証の提示が義務付けられています)。
※IT重説においても、画面上に宅建士証を提示し、相手が視認したことを確認してから説明に入る必要があります。
取引に複数の宅建業者が関係している場合
取引に複数の宅建業者が関係している場合は、すべての宅建業者に重要事項の説明義務があります。
ただし、実際の重要事項の説明については、1つの宅建業者の取引士が代表して行うことで問題ありません。
一方、35条書面には、すべての宅建業者の取引士の記名押印をすることになります。
35条書面を利用した重要事項説明の内容
重要事項説明の内容については、説明すべき重要事項は数多くあります。それらを分類すると、次のようになります。
- 物件に関する内容
- 取引条件に関する内容
- 区分所有物に関する内容
- 貸借に関する内容
- 既存の建物に関する内容
- その他
以下、それぞれについて詳しく見て行きましょう。
物件に関する内容
登記簿上の権利等
土地・建物上の登記された権利の種類・内容、登記名義人又は登記簿の表題部に記録されている所有者の氏名等(法人の場合は、その名称)
法令上の制限
都市計画法、建築基準法などの法令上の制限に関する事項の概要
私道負担
私道負担に関する事項。※建物の貸借場合は説明不要です。
飲用水・電気・ガスの供給および排水のための施設の整備状況
これらの施設が整備されていない場合は、整備の見通しと整備にかかる特別の負担に関する事項を説明する必要があります。
未完成物件の完成時における形状・構造
建物や宅地造成が未完成の場合、それらの完成時における形状・構造その他国土交通省令・内閣府令で定める事項を説明しなければなりません。
取引条件に関する内容
代金、交換差金及び借賃以外に授受される金銭の額及び目的
敷金・手付金・権利金などの金額や目的を説明します。
※代金、交換差金及び借賃については説明不要です(契約時に説明して、契約書に記載します)
契約の解除に関する事項
手付解除、履行不能、履行遅滞、不完全履行などの契約解除の条件が設定されている場合、その条件、方法、効果について説明します。
損害賠償額の予定又は違約金に関する事項
損害賠償額の予定や違約金の定めがある場合には、その額や内容について説明します。それらの定めがない場合には、その旨を説明します。
手付金等の保全措置の概要
手付金等の保全措置の概要(例:保証保険、保証委託など)を説明しなければなりません。
※宅建業者が自ら売主の場合のみ説明が必要な事項です(貸借は関係ありません)。
支払金・預り金の保全措置の有無と概要
支払金・預り金を受領しようとする場合は、保全措置を講ずるかどうか、また、保全措置を講ずる場合は措置の概要を説明します。
※支払金や預り金とは、以下の①~④のいずれにも該当しないもののことです。
- 受け取る額が50万円未満
- 保全措置が講じられている手付金等
- 登記後に受領するもの
- 報酬
金銭の貸借(ローン)のあっせん、および不成立の際の措置
代金、または交換差金に関するローンのあっせんなどに関する内容を説明します。
また、ローンの審査が落ちた場合(不成立の場合)に契約解除ができる場合は、解除に関する事項(解除行使の期限を含む)を説明します。
※売買のみ説明対象です。
契約不適合責任の履行に関する事項
担保責任(契約不適合責任)の履行に関して、保証保険契約の締結などの措置を講ずるどうか、および措置を講ずる場合における措置の概要(保証保険を行なう機関の名称または商号、保険期間、保険金額、保険の対象となる宅地建物の範囲など)を説明する必要があります。
※売買のみ説明対象です。
造成宅地防災区域
宅地又は建物が宅地造成等規制法により指定された造成宅地防災区域内にあるときは、その旨を説明します。
土砂災害警戒区域
宅地又は建物が土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律により指定された土砂災害警戒区域内にあるときは、その旨を説明します。
津波災害警戒区域
宅地又は建物が津波防災地域づくりに関する法律により指定された津波災害警戒区域内にあるときは、その旨を説明します。
水害ハザードマップ
水防法の規定により市町村の長が提供する図面(水害ハザードマップ)に、該当する宅地又は建物の位置が表示されているときは、水害ハザードマップにおける物件の所在地を説明します。
石綿(アスベスト)
建物について、石綿(アスベスト)の使用の有無の調査の結果が記録されているときは、その内容について説明します。
調査結果の記録がない場合・調査が行われてない場合は、その旨説明すればOKです。宅建業者があらためて調査を行うことまで求められているわけではありません。
※この説明義務は、建物のみ対象です。宅地の場合は説明不要となります。
耐震診断
耐震診断を受けた建物である場合は、その内容を説明する必要があります。
※昭和56年6月1日以降に新築の工事に着手した建物は除きます。同日以降に新築された建物は現在の耐震基準で建てられているため、問題ないためです。
※この説明義務は、建物のみ対象です。宅地の場合は説明不要となります。
住宅性能評価を受けた新築住宅
対象の住宅が住宅性能評価を受けた新築住宅であるときは、その旨を説明します。
※この説明義務は、新築住宅のみ対象です。
区分所有物に関する内容
ここでは、マンションに代表される区分所有物に特有の追加項目について説明します。
全部で9項目ありますが、そのうち2つの項目だけが売買・交換・貸借のすべてに関係します。残りの7項目は売買・交換の場合のみ説明が必要です(貸借では説明不要)。
専有部分の用途など
専有部分の用途、その他の利用の制限が規約の定め(案を含む)にある場合は、それを説明します。
具体的には、ペット飼育禁止・ピアノ演奏禁止など、です。
※本項目は、貸借の場合も説明が必要です。
管理の委託先
管理が委託されているときは、その委託を受けている者の氏名又は住所(法人の場合、商号又は名称、主たる事務所の所在地)を説明する必要があります。
ただし、宅建業法においては、委託された業務の内容は説明対象外です。
※本項目は、貸借の場合も説明が必要です。
敷地に関する権利
一棟の建物の敷地に関する権利の種類及び内容(実測面積や登記簿上の面積、所有権、地上権、賃借権など)を説明します。
※売買・交換の場合のみ説明
共用部分の規約
共用部分の管理などの定め(案を含む)がある場合は説明します。
※売買・交換の場合のみ説明
専用使用権の規約
一棟の建物又はその敷地の一部を特定の者にのみ使用を許す旨の規約の定め(その案を含む)があるときは、その内容を説明します。
具体的には、一部の住民のための専用庭や専用駐車場のことです。
※売買・交換の場合のみ説明
減免の規約
修繕積立金や管理費など、所有者が負担しなければならない費用を特定の人にだけ減免するという規約の定め(案を含む)があった場合、その内容を説明します。
※売買・交換の場合のみ説明
通常の管理費用
建物の所有者が負担すべき通常の管理費用について説明します。また、滞納がある場合はその額についても説明します。
※売買・交換の場合のみ説明
修繕積立金
修繕積立金について、規約の定め(案を含む)の内容や、すでに積み立てられている額を説明します。また、前の区分所有者による滞納があるときはその額を説明します。
※売買・交換の場合のみ説明
維持修繕の実施状況
建物の維持修繕の実施状況が記録されている場合、その内容を説明します。
※売買・交換の場合のみ説明
貸借に関する内容
貸借の場合、以下の7項目を追加説明します。
台所、浴室、便所その他の当該建物の設備の整備の状況
※建物の場合のみ説明します。
契約期間・更新
契約期間の定めがない場合は、その旨を説明します。
定期借地権等
定期借地権の設定、定期建物賃貸借契約または終身建物賃貸借契約をするときは、その旨を説明します。
用途その他の利用制限
事業用の利用の禁止など、用途その他の利用制限について説明します。
契約終了時の精算
契約終了時において精算が必要な金銭について説明します。定めがない場合はその旨説明します。
管理の委託先
管理が委託されているときは、その委託を受けている者の氏名又は住所(法人の場合、商号又は名称、主たる事務所の所在地)を説明する必要があります。
ただし、宅建業法においては、委託された業務の内容は説明対象外です。
借地上の建物の取壊し
契約終了時における借地上の建物の取り壊しに関する事項を定めるときは、その内容について説明します。
※宅地の場合のみ説明します。
既存の建物に関する内容
中古物件の場合は、以下2点も併せて説明します。
建物状況調査を実施しているかどうか、及びこれを実施している場合におけるその結果の概要
建物状況調査は、実施後1年を経過していないものに限ります。
※売買・交換・貸借において説明することが必要です。
設計図書、点検記録その他の建物の建築及び維持保全の状況に関する書類の保存の状況
既存建物の建築及び維持保全の状況に関する書類の保存の状況について説明します。
※住宅の売買・交換の場合のみ説明が必要です。
その他
定期建物賃貸借の事前説明を兼ねる場合
定期建物賃貸借契約の場合、事前説明書を交付して事前説明が必要です。35条書面(重要事項説明書)に一定の事前説明書の内容を記載して説明することにより、35条書面の説明にて事前説明を兼ねることができます。
割賦販売契約の追加事項
割賦販売においては、重要事項の説明時に、次の内容を追加説明する必要があります。
- 現金販売価格
- 割賦販売価格
- 宅地建物の引渡しまでに支払う金銭の額および賦払金の額、および支払いの時期や方法
※売買の場合のみ説明が必要です。。
信託受益権の場合
信託の受益権の売主となる宅建業者は、その信託の受益権の源泉となる土地・建物に関して、法定された一定の事項を書面を交付して買主に説明する必要があります。
供託所等の説明
「供託所の説明」は、厳密には重要事項説明の内容ではありません。しかし、消費者保護の観点から、契約までに買主・借主に対し、営業保証金または弁済業務保証金を供託した供託所およびその所在地を説明しなければなりません。
ただし、この説明は「口頭でもよい」「取引士以外が説明してもよい」という点が
35条書面の説明とは異なります。
35条書面(重要事項説明書)と契約書(37条書面)の相違
37条書面とは契約書のことで、契約成立後、遅滞なく交付すべきものです(※宅建業法37条に規定されているためこう呼ばれる)。
これに対して、35条書面での重要事項説明は、買主や借主に対し、「本当に契約すべきかどうか」の判断材料を提示します(契約より、ずっと以前の段階です)。
37条書面(契約書)の段階では、「購入するかどうかの検討は終了」しており、お互いに合意した条件を記載します。つまり、代金・借賃や、支払時期・方法、登記や引渡しの時期などは契約書に書かれる事項となります。
それらの項目は35条書面の段階では未定の場合も多く、重要事項説明に係る事項に含まれていないのです。
罰則
宅建業法に違反した場合には、指示処分・業務停止処分・免許取消処分を受ける場合があります。
一番軽いのは指示処分であり、その次に1年以内の業務の全部または一部の停止処分を受けます。さらに情状が特に重いときには、免許の取消処分を受けることもあるので注意が必要です。
著者情報 | |
氏名 | 西俊明 |
保有資格 | 中小企業診断士 , 宅地建物取引士 |
所属 | 合同会社ライトサポートアンドコミュニケーション |