制限行為能力者とは?
宅建の試験では、権利関係の民法の問題の一つとして制限行為能力者が出てきます。
制限行為能力者とは、行為能力が制限されている人のことですね。
自分の行為の結果を判断できる能力(これを「意思能力」といいます)を持っていない人の行為は、法律上の効力が発生しないと決められています。
例えば、スーパーでオニギリを買うなど、何か購入するのは売買契約ですので、立派な法律行為です。
商品の購入には行為能力が必要で、制限行為能力者が行った法律行為は原則として取り消すことができます。
ざっくり言えば、判断能力が不十分な者が制限行為能力者と考えるとわかりやすいのではないでしょうか。
制限行為能力者制度とは?
制限行為能力者制度とは、制限行為能力者を保護する制度のことです。
制限行為能力者は、自分1人の力で生きていこうとすると色々と問題が発生してしまいます。そのため、保護者を付けて様々な権限を与えることにしたのです。
例えば、高齢や病気で物事をきちんと判断するのが難しくなった方は、自身で行う行為に制限をかけて財産や利益を守ります。
取引の相手方にとっても、突然契約が取り消される等の事象を予防することに繋がるため、制限行為能力者制度のお陰で両者とも安心して取引可能になるのです。
次項にて詳細にお伝えしますが、制限行為能力者は「未成年者」「成年被後見人」「被保佐人」「被補助人」の4パターンにわけられます。
制限行為能力者によって保護すべきレベルが違いますので、保護される態様も変わる仕組みです。
制限行為能力者1:未成年者
満18歳未満の未成年者は、制限行為能力者です。
※2022年4月1日から成年年齢は18歳とされることになりました。
以下では、未成年者が一人でも行える法律行為、および保護者の権限についてまとめました。
制限行為能力者(未成年者)の概要 | |
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未成年者が一人で行える法律行為 | ※未成年者が一人で行える法律行為
単に利益を得る行為 |
上記以外を、未成年者が一人で行為を行った場合 | 取り消すことができる(注意:最初から無効ではありません) |
行為の取り消し | 本人または代理人(親権者) |
保護者の権限 | 「同意権」「代理権」「取消権」「追認権」 |
なお、未成年者でも婚姻(結婚)をした場合、民法上は成年者の扱いになります。
制限行為能力者2:成年被後見人
成年被後見人は制限行為能力者の一人で、精神上の障害で事理を弁識する能力を欠く常況にある者です。
重度の認知症患者が代表的で、家庭裁判所による後見開始の審判を受けた人を指します。
今度は制限行為能力者(成年被後見人)の概要を見ていきましょう。
制限行為能力者(成年被後見人)の概要 | |
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一人でできない行為 | 日常生活に関する行為以外の行為 |
一人で行為を行った場合 | 取り消すことができる(最初から無効ではありません) |
行為の取り消し | 本人および成年後見人 |
保護者の権限 | 「代理権」「取消権」「追認権」、なお、「同意権」はありません。 |
保護者(成年後見人に「同意権」がないのは、そもそも同意したところで成年被後見人には「同意の内容」が理解できないから、という理由になります。
下記で紹介する被保佐人や被補助人と比べると、成年被後見人は保護の必要性が高いと見なされます。
制限行為能力者3:被保佐人
被保佐人とは、精神上の障害で事理を弁識する能力が著しく不十分な者です。
成年被後見人と同じく、家庭裁判所から補佐開始と審判された方のことです。
被保佐人の概要は下記の通りです。
制限行為能力者(被保佐人)の概要 | |
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一人では出来ない行為 | 原則は、全ての取引を一人で行える(ただし、重要な取引は保護者の同意が必要) |
一人で行為を行った場合 | 取り消すことができる(最初から無効ではありません) |
行為の取り消し | 本人および保佐人 |
保護者の権限 | 「同意権」「取消権」「追認権」はあり。「代理権」は家庭裁判所の審判があった場合に認められる |
保護者の同意が必要な重要な取引は、「借金や他人の保証人」「相続の承認や他人の保証人」「不動産の取引」「5年を超える宅地の賃貸借」などが挙げられます。
制限行為能力者4:被補助人
被補助人とは、精神上の障害で弁識する能力が不十分な者です。
判断が困難な状況が高い順番に並べると、成年被後見人>被保佐人>被補助人になります。
制限行為能力者(被補助人)の概要 | |
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一人ではできない行為 | 原則は無し(すべての行為が可能)。例外として、本人が申し出て家庭裁判所が定めた場合の「特定の法律行為」 |
一人で行為を行った場合 | 「特定の法律行為」については、取り消すことができる(最初から無効ではない) |
行為の取り消し | 本人およびや補助人 |
保護者の権限 | 「同意権」「取消権」「追認権」「代理権」のいずれも、家庭裁判所の審判があった場合に認められる |
制限行為能力者の種類は、保護開始の申立てを家庭裁判所にするにあたり、医師から診断してもらってどれに該当するのか判断されます。
保護者の権限
制限行為能力者の保護者には、「同意権」「取消権」「追認権」「代理権」の4つの権限が与えられます(成年後見人に同意権はなし)。
例えば、法定代理人(本人が18歳未満の未成年者の場合の親権者など)は、4つの権限全てを持っているのが特徴です。
未成年者と言っても乳幼児から17歳までと幅広く、何かあった時のために全ての権限を法律で認めていますね。
「同意権」「取消権」「追認権」「代理権」が一体何を指しているのか簡単に見ていきましょう。
同意権
同意権とは、制限行為能力者が法律行為をする前に、「実行しても良いですよ」と許可を与える権利のことです。
取消権
取消権とは、一定の法律行為の取消が可能な権限です。
追認権
追認権とは、制限行為能力者が法律行為を行った後にそれで良いと認める権利です。
代理権
代理権とは、制限行為能力者の代わりに法律行為を行う権利です。
制限行為能力者の詐術
詐術(さじゅつ)とは、わかりやすく説明すると「嘘をついて騙す」ことです。
宅建試験では、制限行為能力者が詐術を用いるケースが事例問題として出題される傾向があります。
法律では、詐術を用いた制限行為能力者の救済は不要、という考え方で成り立っています。
例えば、17歳のAさんは18歳と偽って親の同意書無しで整形手術を行ったとしましょう。
この場合、Aさん本人や親御さんは整形手術を取り消すことができません。
親の同意を得て自分で同意書を書いた場合も詐術的行為と見なされます。
制限行為能力者の取消と第三者の対抗関係
制限行為能力者と契約した場合、「制限行為能力者だから」という理由で契約を取り消される可能性があります。
契約の取り消しに関しては、善意の第三者に対しても対抗できます。
例えば、未成年者のAさんが保護者に内緒で所有している土地をBさんに売却した場合、契約そのものは有効となります。
そしてBさんがCさんに売却した後に未成年者本人や保護者が取り消すと、Aさんは善意の第三者のCさんから土地を取り戻すことができます。
まとめ
制限行為能力者が一体どのような人を指しているのかおわかり頂けましたか?
未成年者や成年被後見人など、単独でできる法律行為が制限されている者のことですね。
宅建の試験において重要なテーマですので、制限行為能力者に関する項目はきちんと押さえておきましょう。
著者情報 | |
氏名 | 西俊明 |
保有資格 | 中小企業診断士 , 宅地建物取引士 |
所属 | 合同会社ライトサポートアンドコミュニケーション |